稲作だより,  土の声

黄金色の理由 土の声 2017.10 No.140

▼秋晴れの午後。西に傾きはじめた陽射しに向かって車を走らせていると、目の前に黄金色に輝く海が現れます。ここは山形県天童市。農道に入ると、つがいとなった赤とんぼは目の前を横切り、サラサラサラと穂波の音、コオロギの鳴き声、イナゴが跳ねる音も聞こえてきます。途中に稲刈りを終えた田圃があると、藁の香りが車のなかを通り抜けていきます。
▼黄色になった水稲の葉を、強い陽射しが透かすのだから、近くで見ても美しさは変わらず、キラキラと輝いています。でも、この美しさは、私たちを楽しませてくれるためではありません。それは、植物の最大のミッションでもある「種」づくりを全うするためなのです。調べてみると、種の登熟が進むにつれて、ある遺伝子が発現し、さまざまな物質を分解するさまざまな「酵素」が作られるというのです。その酵素はおもに「葉緑体」(タンパク質、脂質、核酸などの栄養源となる物質が豊富)の内側に運ばれて、外膜を残して中身だけを分解し、その養分を種に送り込みます。そのために、葉の形は保たったまま葉の緑色が抜けて黄色に変わるのです。
▼自分の体に残る養分までを無駄なく種に転流させるこの仕組みは、自然環境に合わせて進化してきた機能であるとはいえ、やはり感心させられます(被子植物は1億4000万年前、イネ科は4000万年前が起源)。今年は日照不足を取り戻すために刈り取りを遅らせて、この機能を働かせます。間もなく新米です。