1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
3月  March:弥生(やよい)

季節の言葉
●東風(こち)
春になると太平洋から東または北東から吹く風のことです。大陸へと向かって吹く柔らかな風で、春を告げる梅を開花させる風としても昔から多くの歌に詠まれてきました。菅原道真の歌「東風吹かば 匂いおこせよ梅の花 主(あるじ)なしとて春な忘れそ」など、春の代表的な風の言葉です。瀬戸内海の漁師の間では鰆東風、ひばり東風、梅東風などと呼びながら漁の季節の目安にもしていました。
●啓蟄(けいちつ)
二十四節気の一つで、3月の6日は啓蟄に当たります。このころになると外気も暖かみを増して、土の色も潤んで、地中に潜んでいた動物たちが春の息吹に動き始めます。また、土の中で冬眠していた哺乳類や昆虫類が、穴を出てきます。立春過ぎの初めての雷を「虫出しの雷」といいますが、昔の人は春になると落雷に驚いて虫たちが目覚めると考えていました。気温が上昇して、およそ1日の最低気温が5度以上になると、多くの生物は活動を開始します。人も重いコートを脱ぎ捨て、卒業、就職、転勤と動き始める時期でもあります。
◆水温む(みずぬるむ)
凍っていた沼や池の氷もとけ、少しずつ温まり、冬眠していた魚が動き出し、水草も生え始めてくる頃を言います。
◆春の錦(はるのにしき)
あまり色彩感のない風景の冬が終わり、地面に色とりどりの花が咲きようすを美しい錦の織物に見立てたことを言います。
◆春眠暁を覚えず(しゆんみんあかつきをおぼえず)
中国、盛唐の詩人孟浩然(もうこうねん)の詩の一節。春は眠りは心地よく夜が明けるのも気がつかなくて、なかなか目がさめないようす。
◆春風(しゅんぷう)
春の風、春風(はるかぜ)ともいいます。春に吹く東や南からの風で、ゆたりとしたのどかな風のことをいいます。天候や気温も変わりやすくその合間に吹く風で、長くは続きません。春の風は、木々の芽ぐみをうながし、花の香りを運び、また花を散らします。
◆清風(せいふう)
まだ青々しい草原や冷たい雪解け水が流れる川の水面を吹き渡る春の風。春めいた土や緑なども淡い時期だけに、風の色もまだ淡く、見えるように吹きます。
●春疾風(はるはやて)
一般に春の風と言えばのどかな風ですが、この季節は天候が変わりやすく、急に激しく吹き起こる春の強風のことを言います。1日中南風が吹き、気温も上昇しての雪崩やフェーン現象なども起こします。これは日本付近を強い温帯低気圧が通ることが多くなるためです。また、春の強風について他に「春嵐(はるあらし)」、「春烈風(はるとつぷう)」、「春はやち」などの季語があります。
●桃の節句(もものせっく)
3月3日は『桃の節句』と言われますが、これは江戸幕府が定めた五節供のひとつです。正月の7日に食べる七種粥の『人日(じんじつ)』(1月7日の七種の節供)に続くのが『上巳(じょうみ)』(3月3日の桃の節供)で、さらに『端午(たんご)』(5月5日の菖蒲の節供)、『七夕』(7月7日の七夕祭)、『重陽(ちょうよう)』(9月9日の菊の節供)で季節の変わり目を節日(せつにち)と呼んで大事にしてきました。現在では節句と書きますが、もとは節供と書き、「供」はおそなえする意味です。神と供に食べ、わざわいを祓う儀式でもありました。ですからお雛様にお供えするのは神格があるということです。桃の節供は庶民に伝わり、中国から伝わったひなまつりとも一緒になり、女の子のまつりとして幸福と成長を願って賑やかな宴になりました。桃といっても陰暦なので陽暦の3月3日には桃の花は、まだ咲いてはいません。地方によっては昔の暦に合わせ1カ月遅れの4月3日に行われる土地もあります。
●鶯(うぐいす)
春告鳥(はるつげとり)とも書くこの鳥は、姿や声がよいので室町時代から徳川時代に最も盛んに飼育されていました。秋から冬にかけて「チャチャ」と鳴きますが、春になると声変わりして「ホ−ホケキョ」とさえずるのは、雌との出会いを求めて雄が鳴くからです。俗に「梅に鶯」といいますが、ウメの木を訪れる目的は花の蜜を吸う意外に、ウメの木に多いアカダニを食べるためです。この虫を食べるとホルモン状態が良くなり、より良くさえずるといいます。気象庁の統計によるとこの恋のさえずりは四国、九州が3月上旬。中国、近畿、中部、関東が3月中旬から下旬。東北、北海道は4月下旬から5月上旬頃になります。また「ホ−ホケキョ」の後に語尾を伸ばして「ケキョ、ケキョ、ケキョ」と鳴くのを「鶯の谷渡り」といいます。
●春分
二十四節気の一つで、3月の21日は春分に当たります。この日は太陽の黄経0度で昼と夜の時間の長さが等しくなります。この日を中日とした前後のそれぞれ3日間、の計7日間を『春の彼岸』と呼びます。この時期は寺参りや墓参りの日とされ、祖先の供養を行います。3月18日が彼岸入りで24日が彼岸開けになります。「暑さ、寒さも彼岸まで」と言われますが、このころから気温も上昇して陽気も良くなってきます。昔は農家にとっては農事の始まる前の骨休みの時期でした。
●麗か(うららか)
童謡『花』の歌詞に「春のうららの隅田川」と歌われていますが、春の日の良く晴れて日差しがやわらかくてのどかな様子を言います。同じ季語の『のどか』などは時間感覚な意味合いですが、『麗か』は遠くが霞み、これが春だと思われる雰囲気での風景のような感覚での春の把握だといえます。
●桜
 一般に花と言えばサクラを言いますが、サクラの品種は数百種に及び、大きく二つに分けることができます。山野に自生している野生種と品種の改良をして作った園芸種です。野生種は海外にも広く分布していますが一般に東アジアに多く、何々ザクラと言われるのが野生種です。ソメイヨシノ、フゲンソウといったように名前にサクラが付かないのが園芸種であることが多いようです。
 サクラの代表的な園芸種がソメイヨシノで、オオシマザクラとエドヒガンザクラの交配によって誕生したものです。開花時期が3月から春のサクラの開花前線となって北上しますが、1月に咲く沖縄のヒカンザクラや5月から6月に北海道で咲くエゾヤマザクラのように野生種は、開花時期が異なります。また野生種は種類によっては9月を除けば、ほぼ1年中どこかで咲いています。
 ソメイヨシノは、江戸末期に現在の東京の巣鴨にあった染井村で植木屋、伊藤伊兵衛政武が売り出し、明治になって全国に広がったといわれます。野生種に比べて花付きが多く、葉を開く前に花が木全体をおおいつくすほどに咲くといった特徴があり、他のサクラよりも花付きが格段に多いです。また開花時期が短命なのも多くの人をこのサクラに引きつけた理由でもありました。

3月のキーワード
【自然】 春の入り、解凍、終雪、春荒れ、春雨、三寒四温、啓蟄、朧月、菜種梅霞、ヒバリ、ヒキガエル、テントウムシ、つくし、雨、ねこやなぎ、桜の開花予想
【暮らし】卒業式、入学試験、年度の締めくくり、春着の用意、冬物のクリーニング、皮製品の手入れ、ひな人形の片付け、所得税の確定申告、外回りの掃除、春闘
【季語】 春の雪、春雷、春雨、陽炎、水温む、春の山、春社、三月尽、鷹化して鳩と為る、龍天に登る、朧月、雛あられ、菱餅、鶯、若鮎
【誕生石】 アクアマリン(沈着、勇気)
【誕生花】 菜の花(快活)、勿忘草(私を忘れないで)、もくれん(崇敬)
【時候の挨拶】早春、浅春、春暖、春色、春雪、解氷、春雨、麗日、桃の節句春分、春の彼岸、卒業

3月の旬【魚】
【目抜】身は適度な脂けがあり肉量も多いが、味は大味。旬は冬だが、冷凍物は年中出回る。煮付け、鍋物、味噌漬け、粕漬け、網焼き、フライなどにする。
【ほうぼう】早春から晩春にかけてが食べ頃。白身魚で脂は多くなく、淡白でしつこさがない。魚臭さもあまり感じないので、刺身で食べるのがおいしい。
【さより】晩冬から春にかけてが旬。ワタ焼けしやすいので早目にワタ抜きを済ます。淡白で上品な味わい。やや特有の生臭みがあるのでレモンや酢などの酸味を添えるとよい。
【蛤 (はまぐり)】1年中とれるが、旨いのは12月〜3月、店頭で見かけるハマグリの9割以上は輸入物である。焼きハマグリはちょうつがいの部分にある突起をこそげとっておくと、口が開いても煮汁をこぼさずに焼きあげられる。
【さざえ】冬から春までが旬。ビタミンAが多く滋養に富む。壺焼きの合わせ具は、本命のサザエを生かすようにくせのないものを選ぶのがポイント。やはり磯の香りや舌ざわりを味わいたい。
【浅蜊 (あさり)】アサリの旬は春先と秋で、この頃になると身も太り、旨さも一段と増してくる。旨いというだけでなく、ビタミンA、B2、B12の含有量が多く、タンパク質や脂肪も貝類としては多い方である。
【鰊 (ニシン)】旬は春で、2月のニシンは、はしりニシンといわれる。塩焼き、昆布巻き、鍋物などにする。また、天火に干したものは身欠きニシンといい、蛋白質や脂肪、ビタミンBが多く含まれている。ニシンの子が数の子。
【虹鱒 (にじます)】天然物は70〜80センチにも達し、マスの王者ともいわれるが、市販品は養殖物で20センチ前後が多い。産卵前の早春に味がよく、塩焼きやムニエルにすると軽くておいしい。
【田螺 (たにし)】淡水の巻き貝を総称してタニシと呼ぶ。水田でとれるのがタニシ。近頃では養殖物が市販されている。タニシとわけぎの味噌和えや、串に刺して味噌をつけて焼くとおいしい。
【海雲 (もずく)】トロミと磯の香りが身上で、主に酢の物にする。塩漬品がいつでもあるが、冬から春に繁茂し、太平洋側では2月〜3月に、日本海側では6月〜7月に新物が採取される。
【しらす干し】シラスはマイワシ、カタクチイワシ、イカナゴなどの稚魚で、魚体が白い(無色透明)ものの総称。シラス干しは塩茹でしてから軽く干したもので、カルシウムをたっぷり含む。旬は春。
【小鰭 (こはだ)】ニシン科。4〜5センチのものを「しんこ」、10センチ前後を「こはだ」、15センチ以上を「このしろ」と名前が変わる。味も成長と共に変わる。しんこはサッパリした味、こはだはやや脂がのり、このしろになるとやや大味になる。旬はしんこが夏から初秋、こはだが晩秋から冬、このしろは冬。小骨が多く、特有のくせをもつので酢でしめて用いる。こはだは寿司や酢の物などに用いる。
【槍烏賊 (やりいか)】食べ頃は初春といわれているが、特に1月頃がおいしい。刺身、すし種として食べるほか、2月には卵巣が大きくなり、子持ちイカとして丸ごと茹でたり、煮て食べる。肉のやわらかさと、卵の溶けるような食感に人気がある。

3月の旬【野菜】
【芥子菜】春の芥子菜はとう立ちしたもので、漬け物にして食べるのが最適である。芥子菜はビタミン類、特にCが多く、タンパク質、繊維質、カルシウム、鉄などを含む。辛み成分は風味が変わるのを防ぐので、長い間漬けておいてもおいしく食べられる。
【分葱 (わけぎ)】種子をまかずに株分けで栽培するので、分葱と書く。冬から早春にかけて味が良いので、この時期に出盛りの貝類やワカメと和え物にするとよい。
【独活 (うど)】日本古来の野菜。栽培種は早春のものが旬で、香り高い。自生の山ウドは香りが強く、歯触りもよいが、市販されているのは栽培種。東京ウド、中国地方の大山ウドが有名。小さく刻んでアク抜きした後、醤油で食べると独特の香りが味わえる。軽く茹でてお浸しや和えものにもよい。
【じゅんさい】沼や池に自生する水草で、透明なぬめりの付いた春先の若い巻き葉を食用にする。ざっと水をかけ、二杯酢やワサビ醤油で食べたり、汁の実にする。
【浅葱 (あさつき)】1年中出回っているが、最盛期は3月頃。ネギ類の仲間のうちでは、タンパク質やビタミン類、カルシウムなどの含有量が多く、栄養価が高い。アサツキ粥は風邪をひいたときに食べると身体が暖まってよく効く。
【蓬 (よもぎ)】草餅に入れるので、もち草とも呼ばれる。柔らかい若芽を摘み、重曹を加えた湯で茹でるのがコツ。更に水を1〜2回替えながら2時間ほどさらし、団子やヨモギ飯、和え物などに用いる。
【野蒜 (のびる)】3月〜4月頃川の土手やあぜ道にみられるユリ科の野草。形はアサツキに、香りはニンニクに似るといわれ、柔らかい若芽と白い球根を食用にする。
【キャベツ】種類が多く1年中出回っているが、3月〜5月の新キャベツは葉が柔らかく、特においしい。ビタミンCの他、抗潰瘍性のビタミンU、アミノ酸が多く含まれている。便通にもよい。ビタミンUは熱に弱いので、湯通しは手短に。
【嫁菜 (よめな)】本州以南の山野に自生する野草。草全体によい香りがし、春先の若菜が食用となる。また、民間薬として、煎じて解熱剤、利尿剤として使われてきた。塩や重曹を入れて茹で、アク抜きして使う。

3月の旬【果物】
【マスクメロン】熱帯の乾燥地生まれで、湿気を非常に嫌うので、日本では温室でしか栽培されない。そのため1年中出回るが、風味がよいのは1月〜3月頃である。このメロンばかりは専門家が指定した食べ頃の日を守るのが肝心。当日までは冷蔵庫に入れないようにする。
【伊予柑】1月〜5月頃まで店頭に並ぶが、2月〜4月が旬。へたの落ちたものは鮮度が低下しやすい。果肉が軟らかく、そのうえ果汁が多くて甘みが強く、酸味は弱いので生食したり、ゼリーやシャーベットに利用するのもいい。
【レモン】酸味が強く、酸性食品と思われがちだが、実はアルカリ性食品。旬は特になく、1年中とれる。ビタミンCやクエン酸を多く含み、内臓の働きを活発にさせ、疲労回復やスタミナ増強に役立つ。美容、健康にもよい。農薬が付着している場合があるので、必ず洗ってから食べる